闘蟋―中国の蟋蟀文化―①

闘蟋―中国のコオロギ文化 (あじあブックス)

「コオロギ文化は中国固有の文化だ」


「いや文化と言われても」このあまりに力強い発言を前にした僕の第一声はこんなんだったが、多分閲覧者の8割ぐらいが似たような気持ちになっていることだろう。勿論「初めて聞いた」「むしろ他にそんな国があるのか」等と言った感想もあるだろうが結局言わんとしていることは五十歩百歩である。だが僕はその後すぐに自分の無知蒙昧を思い知る事になる。中国4千年は伊達ではなかったのだ。日本の偉大なる先人達の中国レイプは、その実痴漢にすら満たなかったのだ。蟋蟀バトルの世界は広く、そしてあまりに深かったのだ…と、言うわけで中国の闘蟋文化について書いたこの一冊の本を元にして色々語るのが今日の趣旨。皆頑張って付いて来いよ。これは1人じゃもてあますレベルなんだから。

闘蟋には相撲の四十八手のような技があり、コオロギたちには「虎翼大元帥」「鎮威大将軍」といった四股名がつけられることもある

いきなり強パンチが飛んで来たよ。「虎翼大元帥」ってこの分だと蟋蟀に「ガルダフェニックス」とか「ドランザーMS」とか名づけるのがアリということになってしまうのだがどうなんだそれ。四十八手ってこの分だと蟋蟀の動きに「二拾壱式蟋蟀砲」とか名づけるのがアリということになってしまうんだがどうなんだそれ。流石中国。伊達じゃないにも程がある。

本来の体格よりも一ランク下の虫と闘わせるために、虫に減量をほどこす虫主もいる。減量には古今、さまざまな手段が用いられてきた。

減量苦だ。減量苦さえなければ…南京の重量級蟋蟀は中国でも軽んじられ中々タイトルマッチの機会が巡ってこない。だからアイツは必死に減量しライト級まで身体を絞ったんだ。だがその所為で…」とかそんなドラマはいらない。いらないから。そもそも減量できる存在なのかアレは。

彼は著書の『促織経』(促織はコオロギの別名)のなかで、コオロギの体色を白・黒・赤・黄・青の五種に大別し、次のように論じている。

其れは一体何処の次元のMagic The Gatheringなのか。「黒は赤に如かず」とかなんとか言ってくれてるが、黒単蟋蟀はスーサイド・コオロギを基調とした速攻にこそ優れるが赤単蟋蟀のフル・コオロギ・バーンには弱いとかそんな戦略論が蟋蟀同士の果し合いにあるとでもいうのか。大体これを書いた賈似道は蟋蟀宰相と呼ばれていたらしいが、一体何が彼をこうも血迷わせたのか。

さらに各論ではコオロギの体色を、青なら真青、紫青、黒青、灰青、淡青、蝦青蟹青といった具合に細分化。体形についても蜘蛛形蟷螂(カマキリ)形、棗核(ナツメの種)、亀鶴形、土狗(ケラ)形、土蜂形などの変り種にまで言及し、体色との組み合わせでその優劣や特徴説明している。そのうえで「八不闘法」という、闘蟋で避けるべき八つの組み合わせを示している。

各論どころの話ではない。遂に多色蟋蟀デッキが登場。だが『蝦青』や『蟹青』に至ってはもはやどういう色なのかすらわからないこのカオス。更に指摘すると、この著者は「体形に至っても…」などと軽く書いているが『蜘蛛形の蟋蟀』や『蟷螂形の蟋蟀』などに至ってはもはや変り種とかそういう問題ではない。どうやら古代中国人の頭の中での蟋蟀は『鳳凰を模したクラッシュギア』や『龍をモチーフとしたガンダム』等と同じ次元にまで至っているようだ。察するに彼等はもはや蟋蟀を自然界の単なる一要素とは見なしていないのだろう。いや、確実に高次の存在と見なしているに違いない。

いちばん手軽なドーピングとしては虫の体に人間には気づかれない程度のほのかな異臭を付着させ、敵の戦闘意欲をそぐ方法がある。

だから「手軽」とかそういう問題じゃないんだってば、僕等無知蒙昧な日本人にとって見れば。何なんだ、この如何にもどこぞの少年漫画でフランス代表辺りが使いそうな戦法は。そろそろムシキングとかサイカチ辺りが子供騙しにみえてきたんだけどどうすればいい?

もう少し高等なドーピングになると、虫に興奮剤の一種を食べさせる。するといくら噛みつかれても、平気で敵に立ち向かうロボコップのような虫になるのだ。

高等と下等の基準が全くわからないことは百歩譲って置いておくとして、とりあえずジャック・ハンマーのような蟋蟀を生み出すマッド・コオロギストがいたという事実に僕等はどういうリアクションをとればいいのだろうか。*1これだけネタが揃っていればもういっそのこと漫画化できるんじゃないだろうか。うん、見たいよ日本史上初の闘蟋漫画。やれば出来るよ多分。

勇猛果敢なコオロギ同士の対戦は人間に闘志を鼓舞されるまでもなく、すぐさまがっぷり四つに組み、文字通りの死闘を繰り広げる。(〜中略〜)均衡が崩れた瞬間、劣勢に転じた方の頭部や頸部を噛み切ってしまうのだ。だから彼らにとって第一ラウンドでの負けは死を意味し、第二ラウンドも第三ラウンドもない。このような闘い方は「武口」と呼ばれ、よく人間の拳法の外家拳になぞらえられる。

クラッシュギアTURBOだ。もう全てがクラッシュギアTURBO。知らない人向けに説明すると、元来クラッシュギアの公式戦は3ラウンドマッチで戦うのが通常なんだけど、そんなチンタラとしたことはやってられないとばかりに強豪ギアファイターは、大抵1〜2ラウンド目に超必殺技を発動して相手のクラッシュギアを粉々に破壊することによりセットカウントを無視して勝利するという外道戦法を平気で採用し、対戦相手を度々絶望に陥れていたものだが―実は主人公ですら其の戦法を1〜2度実行していたのだが―、それと全く同じ発想だ。*2なんかコレ見てると「もしかして日本のホビー系って中国起源なんじゃないの?」とかそんな気がしてきたんだけ皆はどう思う?むしろ「当然に中国起源だ」って言われた方が納得出来そうな気すらするんだけど。*3

*1:一応中国人の名誉の為に書いておくがこのような手はあくまで「邪道」らしい。

*2:やはり中国人の名誉の為に書いておくがこのような手はあくまで「邪道」らしい。

*3:間違いなく錯覚である。