閉じた本

閉じた本 (創元推理文庫)

閉じた本 (創元推理文庫)

ネタバレごめん


ゲラゲラ笑いながら、これは傑作、などとのたまっていたのだが書評をみると世と私の間にはかなりズレがあった。そもそもゲラゲラ/非ィゲラゲラという感想自体をみかけない。しかし私としてはだ。批判精神をもっているつもりになっていた盲人作家に対し、復讐鬼としての正体を現した助手が復讐とは特に関係なく猛烈な勢いで盲人作家の生活態度をdisっているのが異様に楽しくて笑ってしまった。その非難の一つ一つが妙にしっくりくる。確かに、現実問題としてポールが私の家庭にいたらエクスカリバー(『ソウル・イーター』)の100分の1ぐらいにはウザくてたまらないだろう。しかし現に読んでいるときは第三者としてポールと助手の思いのほか軽妙な会話をやはり思いのほか楽しんでしまっているためそこそこ好感を抱いてしまっている。おそらく、そここそが終盤の、遠慮どころか品性すら生贄に捧げたちゃぶ台返しに際して私がゲラゲラ笑ってしまった理由だろう。作中の『閉じた本』についてちょこっと興味を持って一瞬でも考え込んでしまっただけに「陶酔した言葉で飾っただけの自伝とか書いてんじゃねえよバーカ」と言われたときの妙な爽快感。

ミステリ云々というよりは、盲人というツールを通して「人間どこで何をいわれているかわかったもんじゃない」ということを改めて浮き彫りにするのが狙いなんだろうか。盲人作家は勿論、助手も、そして読者も。確かに言われてみれば「御約束」としてスルーさせたものを後で指摘することで「だよね」と言わせる作風は卑怯といえば卑怯。更によくよく考えると、当初から怪しかった助手がまわりくどい思考の復讐鬼だった、とか何が楽しいんだと言われるとやや返答に困るのも事実。しかし笑ってしまったものはしょうがない。うん。本屋で適当に選んで読んだらおもろかったってことで一つ。