ナニワ金融道

ナニワ金融道(1) (講談社漫画文庫)

ナニワ金融道(1) (講談社漫画文庫)

 この作品の優れたところは、作者が自己の理想的観念に基づいた思想を漫画上の眼に見えるところには決しては出さないところ。例えば、超古典的な少年漫画なんかだと、「正義は必ず勝つ」というドグマがあって、それが話の進行を不自然に捻じ曲げる事がままあるが、この作品においてそれはない。(今まで読んだところでは)一切無い。清々しいまでに無い。だが、金の話である以上これはむしろ正当。一度でも民法を学んだことのある法学生にとっては既に常識だが、金に関る人間全てが満足を得ることなど法は最初から想定していない。この世の資源には上限がある。そして世の総資源が有限である以上「割を食う」人間は必ず何処かに生まれ、金の軋轢は必ず芽を出し花を咲かす。どこか1つでバランスが崩れればドミノ倒しの様な事態になる。「これがドミノだ!」。双方善意の二重譲渡等はそのほんの一例。民法としては、少しでも保護根拠のある方を保護する以外に無い。結果、登記をしたAは土地を得たが一方のBは得れなかった。得れないとなると損害賠償だが損害賠償先の譲渡人Cは既に夜逃げしていた。土地を得れなかったBは、転売予約先Dに土地を売れないことになる。となるとBやDは商売の計算が狂い、計算が狂った為に借りた金を返せず、期限の利益を喪失、金融屋からの差し押さえ。破滅。ガーン。連帯保証人、ちょっくら職員室でストリップ。ちょっとでも歯車が狂えばそこから一気に奈落の底。故に、シビアなリスク管理が要求される魔の海域。言うまでも無く、進んでリスクを増やす連帯保証などもっての外。金は命より重いと言ったのは帝愛の人だったかトム・キャッツのストッパーだったか。しかしこれは、割を食わずに私腹を肥やす手を考える為の、チャンスでもある。民法の基本は利害調整。ならば、利害調整の秤の振れた方に自軍を上手い事―誤魔化してでも―乗せきってしまえばそれで勝ち。善意の第三者としての、既成事実を作ってしまえば勝ちなのだ。他の債権者を誤魔化して、満足得た者が勝ちなのだ……といった諸々の話を極めてクールに描いた漫画。クールがホットになったりはしない。終始このノリ。クールクール、クールはやっぱりクールだった。おもろいよ。一人暮らしの人は読んどくと結構参考になるかもしれない。最近、行きつけの喫茶店ではこればっか読んでる