カスパー・ハウザー/A・v・フォイエルバッハ

カスパー・ハウザー (福武文庫)

カスパー・ハウザー (福武文庫)

 古本屋で購入。購入理由はたまたま眼に入った本数冊の中にフォイエルバッハという法学部の人間なら名前だけは必ず知っているはずの刑法学者の著作があったから。*1ドイツの都市伝説量産装置『カスパー・ハウザー』について180ページ延々と綴った記録。が、一番気になったのは、野生児の羞恥心についての脚注にあった「スピックスとマルティウスがミュンヘンに連れてきたブラジルの野生少女イサベラの場合は、しばらくは文明人のあいだで生活し服を着ていたので、そのあとで、画家の前に立たせるのには、おどしたり、なぐったりして、大さわぎをして、やっと服を脱いだという」なる記述だったりする。それ、羞恥心がどうこうという以前に、普通に性犯罪じゃね? さらっと書くなぁ。

 カスパー・ハウザー事件は、少なくとも日本のミッチーサッチー騒動ぐらいにはセンセーショナルな―言い方を変えればワイドショーのネタになるような―話だったらしく小説家やら歴史家やらこぉめんてぃたぁやらがあることないこと書いたんだとさ。ドイツ人もこういうの好きなのな。巻末の解説*2曰く「カスパーが『簒奪された王子』か『希代の詐欺漢』かその正体を詮索するその正体を詮索するときほど、1828年5月、ニュールベングに出現したこの謎の少年が光彩を放つこともない」。嫌な二択だ。

 本書について言えば、フォイエルバッハは刑法学者らしくこの件について犯罪学的な見地から語っているのが興味深かったが、他方wikipedeiaによると「アンセルム・フォン・フォイエルバッハは、カスパーがバーデン大公家の世継であり、世継問題の事情によりその誕生以来、死産の子どもと取替え、隠匿されていたものと確信していた」。信心深いなぁおい。文体も法学者のわりには無駄に比喩的。こんな人だったんだフォイエルバッハ。全体的にどこまで信じていいんだかさっぱりな話だが、とりあえず、多少なりとも面白かったカスパー(=無知蒙昧な状態を十数年間維持された上で遺棄された青年)のリアクションをあげて終わります。表題『カスパー教会に行く』。

まず人々が叫び、それがやむと牧師が叫び出すのです

*1:ルートヴィヒじゃない方な。

*2:山下武