ギャンブル三段論法

ギャンブルフィッシュ』は、青山広美原作・山根和俊漫画によるギャンブル漫画週刊少年チャンピオン2007年10号から連載されている。(出典:Wikipedia

ギャンブル(賭博(とばく)、博打、博奕(ばくち))とは、金銭や品物などの財物を賭けて偶然性の要素が含まれる勝負を行い、その勝負の結果によって賭けた財物のやりとりをおこなう行為の総称である。(出典:Wikipedia

 ギャンブルフィッシュのいいところはギャンブルをやる気が全く感じられないところだと思います。だってさ、今やってるアレ―カップにサイコロ入れて積み上げる―なんか完全に技術勝負じゃないですか。事前にダイスのイカサマがどうのこうのとか言ってたのが馬鹿みたいじゃないですか。アレがギャンブルなら猫も杓子もギャンブルですよ。野球やサッカーもギャンブルですよ。将棋やチェスも当然ギャンブルですよ。つまりですね、運の絡まない勝負事などこの世に存在しない以上、金賭けて*1ギャンブルと言い張ってしまえば全部ギャンブルになるわけです。これは発明だと思います。脱衣ロリータやファック優等生やらに読者の眼が奪われている隙に、ギャンブル概念それ自体を思う存分ファックしている、というわけです*2。そろそろ、自称眼の肥えた(笑)人間達が「こんなのギャンブル漫画じゃない!」とか言い出す頃合だと思いますが、恐らく、返ってくる返事は「ギャンブルじゃないものをギャンブルに変える、トムの活躍にご期待ください」とかそいう感じの詭弁だと思います。僕が思うに、この漫画の最終シリーズは、アメリカ横断ウルトラクイズに違いない、と、友人全員の魂を賭けて置きます。或いは、こういう言い方も出来ます。ギャンブル漫画とはイカサマのオンパレードである*3イカサマとはドッキリの同義語である。従って、ドッキリの要素があればギャンブル漫画である、というギャンブル三段論法、又の名をギャンブル拡大解釈、又の名を(以下略。まさしく詭弁に他ならないわけですが、主人公のトムが詐欺師である以上、詭弁こそが真実なわけです。これはもうどうしようもないですね。最後の最後に凶悪な卓袱台返し(=メタギャンブル)が用意されていそうな気がして実にスリリングです。以上建前。以下本音。


 やや真面目な話をすると、作者はかなり無理してこれを作っているんだと思う。キノコ委員長や学園アイドルなど、どこをどう見ても戦力外にしか見えない連中にピンでの活躍の場を与えつつ、“この手の漫画”としての最低限のラインを通すのは、実は、大変な重労働なのではないかと思う。無論、トム一点張りで漫画を描くのならこの問題は度外視できる。哲也や秋山、カイジの例を見るまでもなく、主役一点張りなら「スタート時点から一戦ごとに成長」or「スタート時点から底知れない猛者」でわりとどうにでもなる(因みにトムは99.99%後者)。トムならば、例えどんな無理難題をふっかけられたとしても、多分どうにかするだろう。だが、このどうにかするという信頼感が厄介だ。判りやすく言うと、僕は、あのレズハスラーや全裸マジシャンに対し、トムが遅れをとるとは微塵も思わなかった。0.1ミリもドキドキしなかった。つまりはそういうことだ。主役1人での面白さにはある種の限界点がある(寿命、と言ってもいいかもしれない)。今のところ、トムにサシで勝てる奴は見当たらない。恐らく、出て1〜2人だろう。無論今までもよくやったように「これは勝てないだろ」なハンデをつけるという手もあるにはあるが、漫画において最も大事なのは人間力であると僕等は暗黙知において知っている。「トムならなんとかする」この状況が時と場合によっては足枷にもなりうる。そして、だからこその団体戦なのだろう。確かに、今までより面白い。トムが直接闘えない、というだけでスリリングになる。コレも要はハンデ戦の一種なわけだが、トムが直接出られないというのは大きい。無論、これはこれで諸刃の剣だったりするから人の世は無常と言うしかない。主役が相対化した結果、主役の戦いが最も詰まらないと言われる恐れがある、という例のアレを筆頭とした色々なアレがあったりなかったりするわけだ。まぁ、どんな方法にも一長一短という教訓じみたお話ですよ。例えば、短の部分を上げると、“キャラにゲームが追いつかない”“キャラがゲームに追いつかない”という状況がある。ギャンブルフィッシュの例で言うと、今回のゲームははっきり言ってしょぼい。ヘルズエリートのやるゲームじゃない。だが、そうしなければならない理由がある。それは、端的に言って「キノコ相手にキチガイゲームは出せない」だ*4。実際問題、10分間の練習に「アナルの危機によってアップした集中力」を加味しても、キノコにやれるのは精々あのラインまでだろう。例えば、ビリヤードなんかでも、トムだからこそ、騙しを入れる上での最低限の腕前に達することができたわけで、常人ならあの時点でギブアップものだ。「トムなら」「秋山なら」「哲也なら」「アカギなら」……etcが使えないのは思いの外苦しい筈。この辺、苦労してるんだろうなぁ*5。僕はわりと騙されてる方だと思うけど、騙されない人もこの世にはいるだろうしなぁ。

*1:追記:さっき思ったが、別に金じゃなくてもいいな。「ギャンブルっぽい何か」ならそれで十分。

*2:ビリヤードの辺りからその気があった。

*3:自分から運ゲーを始めておきながら、土壇場で運ゲーを拒否する例のロジック。

*4:もっとも、勝負者がトム一点張りだとしてもこの問題は付いて回るが。

*5:その一方で、現状トム以外で最も使えそうな全裸マジシャンを嬉々として切り捨てる辺りが、恐ろしいようなそうでもないような