カード・メディア・リテラシー

 『隣の芝生は青い』というべきか、勉強のため遊戯王OCG界を(大抵Google経由で)適当に観察していると、たまにMTGにおける『色』の利便性を強調し、遊戯王OCGもかくあるべきだと主張する変な人がいる。だが、MTGとOCGは根本からして異なるものだ。類比することすら実は結構難しいテクニックを必要とする。とはいえ、その話はまた何時か百年後にでも取っておこう。気になるのは……だ。彼らは『色』の概念の持つ問題点*1をちゃんと意識してものを言っているのだろうか、という点。一時期、色の役割を重視しすぎたMTGにおける『一方通行決闘』は中々のレイプ具合だったそうな。昔々のお話です。

極端な一例】
黒単:沼→暗黒の儀式→ファイレクシアの抹殺者
青単:負けました(1ターン目投了:高確率)
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青単:島→断絶
黒単:負けました(2ターン目投了:低確率)
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黒単:沼→暗黒の儀式→ファイレクシアの抹殺者
赤単:山→ショック
黒単:負けました(1ターン目投了:高確率)
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緑単:森→リバーボア→怨恨→巨大化
赤単:負けました(瞬殺)
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緑単:森→リバーボア→怨恨
黒単:吸血の教示者→非業の死
緑単:負けました(生物全滅)
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黒単:隠れ潜む邪悪(ライフ半減アタッカー)
緑単:ジャガー→怨恨→樫の力
黒単:負けました(瞬殺)
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黒単:ストロームガルドの陰謀団
白単:負けました(呪文抹消)
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白単:日中の光
黒単:負けました(攻撃不可能)
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赤単:先攻2ターン目石の雨
青単:負けました
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赤単:後攻2ターン目石の雨
青単:対抗呪文
赤単:負けました
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白単:崇拝→プロテクション[赤]
赤単:負けました(絶対勝てない)

 色の役割を徹底した場合、必然的に色の欠陥が浮かび上がる。何故なら、「個性を出す」ということは、それ即ち全知全能の否定であり、長所の裏返しとしての「欠点」が生まれることをも意味しているからだ。これは一見すると健全に見える。だが、個性化を徹底した場合、とある結論もまた浮かび上がってくる。それは「長引けば負ける」。或いは「負けるものは負ける」。

 「5つの色が各自出来ることは全体の1/5強に過ぎない」「『4/5の欠如』が補いがたい欠点となる」「弱点を付かれたら脆い」。ならどうするか。五色デッキ=グッドスタッフが猛威を振るったテンペストブロックとは異なり、単色性がプッシュされたウルザブロック期における、その答えは簡単だった。「ボロが出る前に殺れ」或いは「相性が悪かったら諦めろ」。色の個性=欠点を半端に補うのではなく、むしろ個性を最大化する。火力なら火力、パワーならパワー、スーサイドならスーサイドと、色の長所を全面に押し出したカードのみを可能な限り投入、デッキコンセプトの安定化と固定化を図る。そして、構成を単純化したことによる必然としての超高速化。単色の個性を全面に押し出した構成を取り、何回デッキを回しても金太郎飴のような動きをするデッキを組み上げることで手札事故を極力回避、相手が『嫌な』デッキでも時と場合によっては動き出す前に勝ち星を拾える方向へと全体が移行した。個性化=欠点の明確化により、逆に思い切りが生まれ、極端なデッキを組む人間が増加したわけだ。どうせ黒には遊戯王OCGで言う所の《サイクロン》がないのだから、優秀な部分だけを抽出した方が経済的だ。例えば「先攻1ターン目に得意のハンデス。相手が2枚目を引く3ターン目までに殺す」。実に経済的だ。

 恐らく、ここまで言うと「だったら多色デッキを使って極端なデッキを総合力で駆逐してしまえばいいじゃないか」と思われる人がいることだろうが、前述したように色の個性を明確化することはそれ即ち欠点を明確化することであり、そしてそれは単色の異常なまでの高速化を招く。そして単色の高速化を招いた場合……そう、器用貧乏な低速多色デッキは何もできないまま死ぬ。特定のデッキタイプへの明確な弱点を放置してまで「殺られる前に殺れ」を徹底したデッキに対し、中途半端な多色デッキにできることなど何もない。相手は「他のものには目もくれずデメリットアタッカーを超高速で展開するデッキ」「他のものには目もくれず効率的に手札を使い切って相手を焼くだけのデッキ」「他のものには目もくれず1ターンでも早く土地を壊すだけのデッキ」「他のものには目もくれず延々と相手の呪文をカウンターするだけのデッキ」といった純正のスペシャリスト集団。一点突破を突き詰め、他の一点突破から一方的にレイプされるリスクを甘んじて受ける代わりに、器用貧乏が何かする前に相手を殺れる戦闘能力を獲得したのだ。無論、ここで問題になるのは各デッキ間の相性である。いかにメタを読み相性戦を制すか。そこが決闘の醍醐味として扱われる。要は構築屋の闘い。現実の決闘など1ターンで終わる。プレイングなど世迷い言に過ぎない。所謂「勝ったもん勝ち」の世界。善戦して負けようがあっさり負けようが負けは負け。大事なのはアベレージだ。*2

 追加。色を5つに分けるということは、限られた『全体』を5等分することである。つまりは5色しかない。*3そしてそれは、詰まるところ、メタカードが単純計算にして1/5の確率で刺さるということ。無論、相手のデッキが皆極端な高速環境において、メタカードが刺さった時の悶絶度はただ事ではない。結果、こういう戦術が生まれた。一行で要約すると「自分以外の4色分4枚のメタカードを投入、サーチカードで引っ張ってくればそれ一発で勝てるじゃん」デッキである。

 まとめ:グッドスタッフ撲滅の為『色』の要素を徹底した場合、各勢力の長所がクローズアップされる一方、欠点が如実に浮かび上がる。巨大な欠点に苦しんだ決闘者達は、『反面』伸びた長所を伸ばすだけ伸ばすことで、極度に単純化された超高速デッキをくみ上げる。この時、多色デッキは高速化についてこれず干されるか、或いは多色性を生かした1キルデッキで対抗する(殺られる前に殺られる前に殺れ理論)。結果、偏ったデッキ同士の血で血を洗うメタ合戦が勃発。*4レイプ決闘が多発する。その後、極端なメタ決闘の隆盛により、遂に『全方位対応型メタデッキ』が台頭。デッキから引っ張ってきたただ1枚のカードで相手をレイプする展開となる。以上。

 コナミと比べると一見スマートに見えるWizards of the Coast社もあれで結構色々苦労してるんだ。彼らとて、最初は1マナでカードを3枚引かせたりしてたんだ。ダイナミズム回復の為に、色の役割を壊したり直したり結構色々試行錯誤してるんだ。金になる仕事も大変だ。

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 さて、MTG賛美歌を奏でる遊戯王OCGユーザーと同様、僕は僕で今回詐術を用いたような気がしなくもない。よって、ここまで読んで愚かにも納得してしまった人間には、もう一度読この文章を一からみ直すことをおススメする。僕の言っていることなど大抵適当だ。特に今回は、ノリと想像で書き上げた部分が大なので、君らにはより一層のメディア・リテラシーが要求されることとなろう。イェーイ。

「世界は〜慈愛でぇ〜満ちている〜ララ〜♪」

*1:往々にして長所には短所が性病のようについてくるもの。

*2:それはそれで1つの道ではある。レイプは楽しい。或いは、それもまた真剣勝負の醍醐味。

*3:例外:アーティファクトという名の無色。

*4:メタ決闘≒ネチネチクドクド相手の悪口を言い合う闘い。